一日の多くの時間を同じような姿勢で過ごす方は、体の使い方に偏りが出てしまい、体に歪みが出てきたり、筋肉が緊張して痛みが出てきたりしがちです。
仕事等でそうせざるを得ない場合は、メンテンナンスのつもりで時々施術を受けていただくことをお勧めしますが、より健康的に過ごすためには、適度に運動して身体全体を使うことも大切です。身体全体を動かすことで、普段の生活で使えていない部分を活性化させることができます。
とは言え、普段身体を動かさない人や、運動が好きでない人が、いきなり運動すると言ってもなんだか億劫だし、中々難しいものです。
利点
一番手軽に始められる運動と言えば、歩くことです。歩くことは私達にとって最も基本的な運動です。歩くことで筋肉や脳が活性化され、肉体面はもちろん精神面でも良い効果があります。ウォーキングの効用についていくつかご紹介しましょう。
体重維持:
ウォーキングは有酸素運動なので、脂肪を燃焼させるのに効率がよいです。従って体重の維持やダイエット効果があります。では、太っていなければ運動しなくて良いかというと、そうではありません。最近話題になっている肥満の中に、サルコペニア肥満と呼ばれるものがあります。これは、加齢により筋肉量が減少すると同時に脂肪が増えている状態を指します。一見太っているようには見えないし、体重も重くないのがこのタイプの肥満で、筋肉が痩せてしまったせいで、太って見えないだけで実は肥満なのです。サルコペニア肥満は、運動不足の高齢者や、食事制限のみで偏ったダイエットをしている方に起こりやすいです。特に高齢者では、筋力が痩せて運動機能が低下することで転倒・骨折、そこから最悪の場合は寝たきりになってしまうこともあります。身体を動かして、筋肉を維持することが、とても大切になります。
生活習慣病の予防:
ウォーキング等の持久力が必要な運動は、心肺機能を向上させます。心臓は、拍動することでポンプのように全身に血液を送りますが、筋肉もまた、縮んだり緩んだりすることで、血管に対してポンプのように作用して血液を送ります。筋肉は心臓の働きを助けるのです。歩くことで下半身の筋肉が使われれば、心臓から遠い足の部分での血行も促進されます。心臓や血管の病気、高血圧、糖尿病などの予防につながります。
骨を強める:
骨は刺激を受けることで強くなります。骨に力が加わると、その部分を丈夫にするために骨を作る細胞が活性化します。骨に対する適度な負荷が骨を丈夫にするのです。骨の成分であるカルシウムを取り込んで骨を丈夫にするためには、ビタミンDが必要です。ビタミンDは、太陽の光を浴びることで、体内で生成されます。お日様の光を浴びながら、骨に適度な刺激を与えるウォーキングは、骨を丈夫にするのに適した運動と言えるでしょう。
気分の向上:
セロトニンという神経伝達物質は、舞い上がったり不安になったりする心を適度に抑える働きがあると言われています。例えばうつ病では、セロトニン神経の働きが弱っていることが明らかになっています。落ち込んだ気分を向上させ、落ち着いた状態でいるには、セロトニン神経がしっかり働いていることが大切です。セロトニン神経は、一定の周期で身体を動かすリズム運動によって活性化されます。リズム運動の良い例がウォーキングです。太陽の光を短時間浴びることもセロトニン神経を活性化させますので、朝日を浴びながらウォーキングすれば、生体時計が整えられ、自律神経やセロトニンの働きがより高まりより効果的です。
身体のバランスや協調性を高める:
体の平衡機能や協調性は、非常に重要な機能です。自分が今どのような体勢にあるかを感知して、転ばないようにするには、平衡感覚、そして体のパーツをオーケストラの演奏のようにまとめて動かす協調性が必要です。年齢を重ねるとこれらの機能は衰えていきますが、それを防ぐためには、体を動かすことが大切です。歩くときには、移動する重心に対して身体全体が常に協調して働きながら、転ばないようにバランスを保って進んでいきます。ウォーキングは、体全体を使いますし、平衡感覚を検知する重要な場所のひとつである足の裏の感覚も刺激されるので、とても良い運動だといえます。
やり方
ここまで読んでウォーキングを始めてみようと思った方、せっかくなのでただ歩くだけでなく、以下の点を意識してやってみましょう。
1.頭を上げましょう。下を向かず視線は遠くを見るようにしましょう。
2.背中を丸めず、かと言って姿勢良くしようと背筋を伸ばし過ぎないようにしましょう。首、肩、背中は、力を抜いてリラックスさせましょう。
3.腕をしっかり振りましょう。普段歩く時は、そんなに腕を振る必要はありませんが、ウォーキンングの時には、しっかりと腕を振ることを意識してみましょう。背中側の筋肉を使うことができます。
4.膝を真っ直ぐ前に出すようにしましょう。膝が外や内を向いていると、がに股や内股歩きになってしまいます。運動会の行進のように膝を高く上げる必要はありません。膝をリラックスさせ、進行方向に向かって自然に真っ直ぐ出すようにしましょう。
5.最初の数分はゆっくり歩いてウォーミングアップ。ウォーキングをする時は、普段歩くよりも少し早めのテンポで歩く方が効果的ですが、ウォーミングアップのつもりで始めは遅めで徐々にテンポを上げていきましょう。
頻度
どの程度歩けば良いのかについてですが、健康維持のためには、最低週2時間半が良いようです。これは一日30分程度を週5日の計算になりますが、無理なら1日15分を2回に分けても構いません。これはあくまでも目安ですので、自分の状態に合わせて無理せず行いましょう。例えば、最初は5分ずつから始めて徐々に時間を増やしていく等の工夫をすることも必要です。一番大切なことは、続けることです。
気を付けなければならないのは、痛いのを我慢して運動することです。歩くと痛い場合は、痛みの出ない別の運動を行います。痛みをこらえて運動すると悪化させてしまう可能性があります。まずはしっかり治すことが大切です。
参考文献
- Mayo Clinic.” Walking: Trim your waistline, improve your health.” (2014年5月20日参照)
- 有田秀穂. 「セロトニン欠乏脳」 生活人新書、 2003